GenStage
このレッスンでは、GenStageをどのように扱うのか、アプリケーションでどのように活用できるのかを詳しく見ていきます。
イントロダクション
GenStageとは何でしょうか? 公式ドキュメントによると「Elixir向けの仕様と計算フロー」とされていますが、これはいったいどういう意味なのでしょうか?
つまるところGenStageは、個別のプロセスで独立したステップ(ステージ)によって実行される、処理のパイプラインを定義する方法を提供します。パイプラインを使った処理をした経験がある方なら、こうした概念はよくご存知でしょう。
この仕組みがどうやって動くかをより良く理解するために、単純な生産者-消費者のフローを以下に図示します。
[A] -> [B] -> [C]
この例では生産者(producer) A
、生産者-消費者(producer-consumer) B
、そして消費者(consumer) C
という、3つのステージがあります。
A
は B
により消費される値を生産し、 B
はなんらかの処理をしたのちに消費者 C
によって受信される新しい値を返します。次のセクションで説明するようにステージの役割は重要です。
この例では、1対1の生産者対消費者となっていますが、どのステージにおいても、両方とも複数の生産者、複数の消費者を持つことが可能です。
この概念をより詳しく説明するために、GenStageを使ってパイプラインを構築しますが、まずはじめにGenStageの各役割をもう少し深く掘り下げてみましょう。
消費者と生産者
これまで見てきたように、ステージに与えられた役割は大切です。 GenStageの仕様では以下の3つの役割があります。
-
:producer
— 送り元。 生産者は消費者からの催促を待ち、要求されたイベントに応じる。 -
:producer_consumer
— 送り元と受け手の両方。 生産者-消費者は、生産者からの要求イベントと同じように、他の消費者からの催促に応じる。 -
:consumer
— 受け手。 消費者は、生産者に要求してデータを受け取る。
生産者が催促を 待っている ことに注意してください。GenStageでは、消費者が上流の生産者に催促を送り、生産者から送られてくるデータを処理します。 これによって、バックプレッシャーとして知られる仕組みが容易になります。 バックプレッシャーというのは、消費者の処理がビジーの時に過剰なプレッシャーがかからないよう、生産者側にその責任を負わせる仕組みです。
さて、GenStageの内部の役割についておさらいしたところで、実際のアプリケーションを作ってみましょう。
はじめに
この例では、数値を生成し、偶数をソートし、そして最後にそれらを出力するGenStageアプリケーションを構築します。
このアプリケーションでは、3つのGenStageの役割を全て使います。 「生産者」は、数を数えたり出力したりする責任があります。 「生産者-消費者」は、偶数だけにフィルタリングし、下流から来る催促に応えます。 最後に、数字を表示する「消費者」をつくります。
まずはスーパーバイザーツリーを持つmixプロジェクトを作成しましょう。
mix new genstage_example --sup
cd genstage_example
続いて mix.exs
ファイルを開いて依存ライブラリに gen_stage
を加えます。
defp deps do
[
{:gen_stage, "~> 1.0.0"}
]
end
この先に進む前に、依存ライブラリを取得してコンパイルを通しておきましょう。
mix do deps.get, compile
生産者を構築する準備が整いました!
生産者
GenStageアプリケーションの第一歩は、生産者の作成です。 先ほど述べたように、一定の数のストリームを生成する生産者を作成する必要があります。 という訳で早速、生産者のファイルを作成しましょう:
touch lib/genstage_example/producer.ex
そして以下のコードを書き加えましょう:
defmodule GenstageExample.Producer do
use GenStage
def start_link(initial \\ 0) do
GenStage.start_link(__MODULE__, initial, name: __MODULE__)
end
def init(counter), do: {:producer, counter}
def handle_demand(demand, state) do
events = Enum.to_list(state..(state + demand - 1))
{:noreply, events, state + demand}
end
end
ここで着目すべき2つの重要な個所が init/1
と handle_demand/2
です。
GenServerのところでやったように init/1
で初期状態をセットしますが、もっと大切なのは自分自身に「生産者」とラベル付けすることです。
GenStageは init/1
関数からの戻り値で自身のプロセスを分類します。
handle_demand/2
関数は生産者の大部分がある場所ですが、この関数は全てのGenStage生産者が実装しなければなりません。
ここで消費者によって催促された数のセットを返し、カウンターを増やします。
消費者からの催促は、上記のコードでは demand
となっていますが、これは処理可能なイベントの数に対応する整数として表されています(デフォルト値は1000です)。
生産者-消費者
数を生成する生産者ができたので、今度は生産者-消費者に移りましょう。 生産者に数を催促し、数をフィルターして偶数のみに絞り、消費者からの催促に応えたいと思います。
touch lib/genstage_example/producer_consumer.ex
以下のサンプルコードのようにファイルを更新しましょう:
defmodule GenstageExample.ProducerConsumer do
use GenStage
require Integer
def start_link(_initial) do
GenStage.start_link(__MODULE__, :state_doesnt_matter, name: __MODULE__)
end
def init(state) do
{:producer_consumer, state, subscribe_to: [GenstageExample.Producer]}
end
def handle_events(events, _from, state) do
numbers =
events
|> Enum.filter(&Integer.is_even/1)
{:noreply, numbers, state}
end
end
生産者-消費者に init/1
の中の新しいオプションと新しい関数 handle_events/3
を導入したことに気づかれたかもしれません。
ここでは subscribe_to
オプションを用いて、ある特定の生産者と通信することをGenStageに指示しています。
handle_events/3
関数は、入ってくるイベントを受取って処理し変換した値の集合を返す場所です。
ここからもわかるように、消費者はほとんど同じ方法で実装されますが、重要な違いは、 handle_events/3
関数の戻り値とその使用方法です。
プロセスにproducer_consumerとラベル付けすると、タプルの第2引数(ここでは numbers
)が下流の消費者からの要求を満たすために使われます。
消費者側ではこの値は破棄されます。
消費者
最後に消費者があります。 でははじめましょう:
touch lib/genstage_example/consumer.ex
消費者と生産者-消費者はとてもよく似ているので、さほど変わりありません:
defmodule GenstageExample.Consumer do
use GenStage
def start_link(_initial) do
GenStage.start_link(__MODULE__, :state_doesnt_matter)
end
def init(state) do
{:consumer, state, subscribe_to: [GenstageExample.ProducerConsumer]}
end
def handle_events(events, _from, state) do
for event <- events do
IO.inspect({self(), event, state})
end
# 消費者としては二度とイベントを出力しない
{:noreply, [], state}
end
end
前のセクションで学習したように、消費者はイベントを出力しないので、タプルの2番目の値は破棄されます。
全部まとめる
さて、生産者、生産者-消費者、そして消費者が生まれた今、すべてを結びつける準備が整いました。
lib/genstage_example/application.ex
ファイルを開いて、スーパーバイザーツリーにこれらの新しいプロセスを追加しましょう。
def start(_type, _args) do
import Supervisor.Spec, warn: false
children = [
{GenstageExample.Producer, 0},
{GenstageExample.ProducerConsumer, []},
{GenstageExample.Consumer, []},
]
opts = [strategy: :one_for_one, name: GenstageExample.Supervisor]
Supervisor.start_link(children, opts)
end
もし間違いが一つもなければ、このプロジェクトを実行すると全てが正しく動くはずです。
$ mix run --no-halt
{#PID<0.109.0>, 0, :state_doesnt_matter}
{#PID<0.109.0>, 2, :state_doesnt_matter}
{#PID<0.109.0>, 4, :state_doesnt_matter}
{#PID<0.109.0>, 6, :state_doesnt_matter}
...
{#PID<0.109.0>, 229062, :state_doesnt_matter}
{#PID<0.109.0>, 229064, :state_doesnt_matter}
{#PID<0.109.0>, 229066, :state_doesnt_matter}
できました! アプリケーションが偶数だけを出力するのを期待していましたが、こんなにも 素早く 出力しています。
ここに処理パイプラインがあります。 生産者は数字を出力し、生産者-消費者は奇数を破棄して、そして消費者はそれらの数を表示するというフローを続けています。
複数の生産者もしくは消費者
イントロダクションで言及したように、1つ以上の生産者、または、消費者を持つことができます。 少し見てみましょう。
サンプルから IO.inspect/1
の出力を調べると、各々のイベントは単一のPIDによって処理されていることがわかります。
lib/genstage_example/application.ex
を修正して複数のワーカーが動くように少し調整してみましょう。
children = [
{GenstageExample.Producer, 0},
{GenstageExample.ProducerConsumer, []},
%{
id: 1,
start: {GenstageExample.Consumer, :start_link, [[]]}
},
%{
id: 2,
start: {GenstageExample.Consumer, :start_link, [[]]}
},
]
ここで2つの消費者を設定してアプリケーションを実行するとどうなるか、見てみましょう。
$ mix run --no-halt
{#PID<0.120.0>, 0, :state_doesnt_matter}
{#PID<0.120.0>, 2, :state_doesnt_matter}
{#PID<0.120.0>, 4, :state_doesnt_matter}
{#PID<0.120.0>, 6, :state_doesnt_matter}
...
{#PID<0.120.0>, 86478, :state_doesnt_matter}
{#PID<0.121.0>, 87338, :state_doesnt_matter}
{#PID<0.120.0>, 86480, :state_doesnt_matter}
{#PID<0.120.0>, 86482, :state_doesnt_matter}
見ての通り、単に一行のコードを付け足し、消費者のIDを与えただけで、複数のPIDができました。
ユースケース
さてこれまでにGenStageについて学習し最初のサンプルアプリケーションを構築してきましたが、GenStageの 実際の ユースケースはどのようなものがあるのでしょうか。
-
データ変換パイプライン - 生産者は、単純な数値ジェネレータである必要はありません。 データベースや、Apache Kafkaのような別のデータソースからイベントを生成することもできます。 生産者-消費者と消費者を組み合わせれば、それらが利用可能になった時に、メトリクスを処理したりソートしたりカタログ化したり保存したりすることができます。
-
処理キュー - イベントはどんなものでもありえますが、一連の消費者によって実行される、まとまった処理を生成することができます。
-
イベント処理 - データパイプラインと同様に、ソースからリアルタイムで出力されたイベントに対し、受信し、処理し、並べ替えたり等の処理することができます。
これらは、GenStageで出来ることのほんの数例にすぎません。
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